立ち退き料に相場はある? 立ち退き料を増額するには


 ビルや商業施設に入居し、飲食店やショップを経営しているテナントにとって、オーナーとの間の賃貸借契約は、営業を継続するに当たり最も基本的な経営資源といえます。
 それにもかかわらず、ある日突然、オーナーから建物の老朽化等を理由に立ち退き・退去を求められたら、テナントはどのように対処したら良いでしょうか。オーナーの要求にしたがって、必ず出ていかなければいけないのでしょうか。

 この点について、前回の記事<オーナーからの立ち退き請求が認められるのはどんな場合? 正当事由って何?>で詳しく解説し、立ち退きが認められるためには、通常、オーナーが正当な立ち退き料を支払う必要があると考えられること、実務上は、テナントも十分な立ち退き料を受け取るのと引き換えに、任意に退去している事例が多いことなどをご説明しました。

 それでは、肝心の立ち退き料の金額は、どのように決まるのでしょうか。立ち退き料に「相場」はあるのでしょうか。また、立ち退き料を増額するためには、どうしたら良いでしょうか。
 今回は、これらの疑問点について、これまで立ち退きの問題を多数取扱い、解決へと導いてきたはれやか法律事務所がお答えいたします。

 

1.当事者間で合意できない場合、裁判所が立ち退き料の金額を決める

 まず、オーナー・テナント間の話し合いによって、立ち退き料等の条件面に折り合いがついた場合、当事者間でそのような合意をすることは自由です。
 したがって、当事者間で合意書等を作成した上で、テナントは、この合意に基づいて建物から立ち退き、それと引き換えに、オーナーから約束の立ち退き料を受け取ることになります。

 他方、オーナーがテナントに対して立ち退き料の支払を拒んでいる場合や、オーナーの提示する立ち退き料の額が不十分である場合には、テナントは、任意の立ち退きには応じることができません。
 この場合、立ち退きを求めているオーナーの側から、テナントに対する「建物明渡請求訴訟」を提起することになり、オーナー・テナント間で、更新拒絶や解約申入れを理由とする立ち退き請求に「正当の事由」が有るか否かが争われることになります。
 そして、
裁判所は、通常のケースであれば、「正当の事由」を認める前提として、オーナーに対し、立ち退き料の支払を命じることになります。なお、その際、裁判所は、対象建物の立地・築年数・賃料・広さや、テナントの業態、建物の使用目的・使用状況、経営状態、オーナーが個人か法人か、どういった事情から立ち退きを迫っているのか等の個別具体的な事情を総合的に考慮します。また、裁判所が、不動産鑑定士に対して、立ち退き料の額の鑑定を嘱託することもあります。


 このように、立ち退き料の金額は、まず、当事者間で協議を行って決めることになり、かかる協議を経ても合意に至らなかった場合には、オーナーから提起される建物明渡請求訴訟において、裁判所が様々な事情を考慮した上で、最終的には判決で決めることになります。

 

POINT

立ち退き料の金額は、オーナーと合意して決めることができます。
・オーナーとの話し合いで決めることができなかった場合には、裁判所が、個別具体的な事情を考慮して立ち退き料の金額を決めることになります。

 

2.立ち退き料の金額に「相場」はない。ただし…

 それでは、当事者間で合意するにせよ、裁判所が判決で命ずるにせよ、立ち退き料の金額について、参考となるような「相場」はあるのでしょうか。

 結論から言うと、立ち退き料の金額について、一律的に参考となるような「相場」はないと考えられます。これは、立ち退き料が、「正当の事由」と相関関係にあり、事例ごとに異なる個別具体的な事情を総合的に考慮して決まるものであるからです。
 
ただし、オーナーの側から立ち退き料が提示される場合、当初の提示金額は、賃料の6か月分から12か月分程度であることが経験上多いです。その理由は定かではありませんが、オーナーが内訳として主張することが多いのが、引っ越し代と新しく賃貸借契約を締結する際の仲介手数料であり、これらに多少の手間賃を加算すると、上記の範囲に収まること場合がほとんどと考えられます。
 したがって、オーナーの立場からすると、立ち退き料の「相場」は、賃料の6か月分から12か月分と言えるかも知れません。

 しかし、テナントの立場からすると、賃料の6か月分から12か月分という程度の金額では到底納得できないということが多いと思います。特に、飲食店などのように、新店舗の内装設備工事など、引っ越しに伴って多額の出費を見込まざるを得ないケースでは、上記の水準では到底応じられないということがほとんどでしょう。上記はあくまでオーナーが初回に提示する目安金額に過ぎません。オーナーの提示する条件をそのまま受け入れて立ち退く必要はないということに注意が必要です。

 

POINT

・立ち退き料の金額に「相場」はありません。
・オーナーにとっては、賃料の6か月分から12か月分程度の立ち退き料が「相場」かも知れませんが、これに応じる必要はありません。

 

3.立ち退き料を増額するためには

 上で述べたとおり、オーナーの提示する立ち退き料の金額は十分なものではないことがほとんどであり、きちんと対応すれば立ち退き料を増額することはできます
 そして、確実に立ち退き料を増額したいのであれば、立ち退き問題に精通している弁護士に増額交渉を依頼することが一番です(当事者間の協議の場面であっても、合理的な当事者は、裁判所であれば当該事例においてどのような判断を下すかを想定し、また、自らに有利な裁判例を引用するなどして、駆け引きをします。このような駆け引きは、法律専門家でなければ非常に難しいことでしょう。)。


 立ち退き料を増額するポイントの一つとして、「正当の事由」に関してテナントの立場から十分な主張を行うことが挙げられます。特に、テナント側の被る不利益について、緻密に主張することが必要です。テナント側の不利益が甚大と考えられる事例であれば、そもそも「正当の事由」が認められない可能性すらあるため、オーナーとしては立ち退き料を増額してでも早期の解決を望む傾向にあるからです。また、テナントの側でも、これらの不利益を経済的に換算して増額を迫り、有利に交渉を進めることなどが考えられます。

 なお、裁判例の中には、オーナー側の事情がやむにやまれぬものであるのに対して、テナント側の事情はそこまでのものではない旨を指摘し、最終的な立ち退き料の額を鑑定額から割合的に減額することを認めたものなどがあります。他方、裁判例の中には、テナントの被る不利益を重視して、立ち退き料の金額としては、鑑定額に一定金額を上乗せした金額が相当であると判断したものもあります(例えば、東京地方裁判所平成17年(ワ)第2270号建物明渡請求事件・同19年2月2日民事第5部判決等。)。この点からも、「正当の事由」に関して十分な主張を行うことが重要といえるでしょう。

 また、立ち退き料には相場はありませんが、算定方法はあります。借家権割合法、貸家控除法、損失補償基準などと呼ばれるものがそれに当たります。立退き問題に精通している弁護士であれば、これらの算定方法のうち、その事例において最も有利と考えられるものを念頭において具体的な立ち退き料の額を提案するなど、裁判に発展した場合にも備えながら理的に交渉を進めることが可能です。

 なお、弁護士に依頼するメリット/デメリットについては、別の記事でまとめる予定です。

 

POINT

・立ち退き料を増額するには、立ち退き問題に精通する弁護士に依頼するのが確実。
・「正当の事由」を理解した上で、テナント側の被る不利益を説得的に主張することが重要。
・立ち退き料の算定方法を理解した上で、テナントの有利に活用することが重要。

 

4.まとめ

 以上に述べたとおり、立ち退き料の金額は当事者の合意によって決めることができますが、「相場」がないため、専門家でなければ金額の妥当性を判断することは困難であり、立ち退き料の増額のためには弁護士の手を借りるのが賢い選択だと考えています。
 当事務所では、これまで多数の立ち退き問題を解決へと導いてきました。当事務所には立ち退き料に関するノウハウがあります。立ち退き料に「相場」はありませんが、ご相談をいただければ過去の事例などから、およその金額をお伝えすることも可能です。
 初回の法律相談は無料で行っておりますので、立ち退き問題にお悩みのお客様はぜひ当事務所までお問い合わせいただければと存じます。